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また観てきた

唐突だが7,000円という金額が自分にとってどれほど価値があるものかと言えば、まず中古のCDを買いにディスクユニオンへ行けば気になっていたアーティストのカタログは大抵集めることが出来るだろうし、タワレコに行けば時代の音というものをひと通りなぞるのに足る金額だ。シネコンに行けば4本新作映画を見られる。名画座に行けば10本くらい素晴らしい作品を見られるだろう。ある作家の特集上映をコンプリートすることだって可能だ。東京は本当に良い街だ。また、気合の入った専門書や単行本を2冊ほど買うことも出来るだろうし、前から欲しかった文庫本や新書をまとめて買うことも出来る。ランチをいつもより奮発して一週間過ごせるし、友人たちと豪勢に食べて飲んで遊んでも、俺のちっぽけな生活水準からすれば十分お釣りが来る金額だ。いやー凄い。

さて、そんな俺にとっては大金であるところの7,000円を費やして再び16人のプリンシパルtroisを見に行った。今回の第一幕はこの前観劇した際の、目に見えて弛緩してダラダラとした雰囲気と物真似の一発フレーズで笑いを取ろうとする行為が減っていて随分見やすくなっていた。正直言ってそれだけで良いなと思ってしまった。これは松井玲奈さんが参加していたことが影響しているのだろうか。だとしたら凄い。あとは伊藤万理華さんが「まりっか17'」を歌ってるのを見れたのは嬉しかったし、松井玲奈さんと中田花奈さんがゲキカラの話をしていて個人的にアガった。皆かわいいからそこにいて演技をしたりコントをしたりしているだけで十分満足という意見に納得出来ないこともない。

しかし何度見ても第二幕はやはり受け入れられなかった。どこが気に入らないかは前の記事に随分書いたのもあるので、大上段の話を展開させて申し訳ないのだが、まあしたいので大上段の話を展開させていく。

俺は観客という存在を軽視し、"テレビ的なお約束"を裏切ることとなあなあの雰囲気を作り出すことそれのみによって笑いを取ろうとする舞台や映画表現を心の底から軽蔑する。だってそんなことをやってる人間が興行的にでも批評的にでも"正しい"ということにされてしまえば、雰囲気や予定調和に逃げずに誠実に面白いもの、新たなものを作り出そうという人々はバカらしくなってしまうだろう。その結果世の中はどんどんどんどんつまらなくなっていく。ヒマになってしまう。それはとても困る。

ところで、つまらなくなっていくというのは具体的には、複雑で豊かな感情が渦巻く表現というのが少なくなっていき、説明的で「悲しい」だとか「楽しい」だとか単一の感情しか存在しないし与えてもくれない表現が増えることをここでは言う。

悪魔のいけにえ」というホラー映画がある。堀未央奈さんのフェイバリット・ムービーらしいが、俺もラストシーンが大好きで、それを観るために家で何度も繰り返し再生している。あのラストが何故素晴らしいかと言えば、それは複雑な感情を我々に想起させるからだ。鳴り響くチェーンソーの轟音と舞うレザーフェイスを見ると、「悲しい」とか「怖い」とか「安心した」とかあるいは「美しい」とか、とにかく様々な感情の断片が混ざり合い、その結果自分でもどうにも説明することが出来ない、言葉として表すことがまったく不可能な感情が生まれる。俺はそれを豊かな経験だと思うし、肯定する。

ここが笑う所ですよ、という雰囲気を作り出し、そのための記号をポイポイと放り込み、観客がそれに対応して笑う。俺はこれを単純で、つまらない表現が生み出すつまらない経験だと思う。ホント、勘弁して欲しい。つるっつるで何も創意工夫がなく、「ノリ」とか「雰囲気」で誤魔化そうとする表現はつまらない。

もちろん、こうした連中の作品は俺にとって何の必要もない。世の中には過去の偉大なる人々が自分の才能と努力を注ぎ込んでようやく作り上げた数々の素晴らしい作品が生涯で見きれないほど存在しているし、言葉や国は違っても何か面白いものを作り出してやろうとする人々が今もたくさんいる。テレビ的な作品を観るのはそれが好きな人たちに任せて、俺はそっちを見ていればいいのかもしれない。

でも俺は、"アイドル"という今この時代のこの国に今実際に生きている、めちゃくちゃかわいくて魅力的な女たちが、作家の創意に満ちた表現と手を組み、舞台や映画という場で暴れまくる表現を心の底から望んでいる。好きなものと好きなものが合わさればもっと好きになるに決まっていると思う。見たくて見たくて仕方がない。だから、大金を費やして手抜きで作る連中がのさばり、舞台や映画という場でアイドルを手掛けていると本当に困る。実害がある。これは別に福田雄一氏に限った話ではない(そもそも彼はTVバラエティを作る才能はあるし、それは面白いとも思う)。

なので、こうした単純極まりない舞台や映像作品が少しでも減ればいいなと思うし、こんな酷いものがありますということは誰かに伝わってなんとかしてほしいなーとも思う。心の底から思うのだが、俺はこの世の中が少しでも面白い世界になってほしい。実際はこの文章は誰にも見られもしないし、誰かに影響を与えることも出来ないだろう。それでもとにかく、見てしまった者の責務として思ったことを言わなければどうにもならない。そういうわけでまたダラダラと愚痴と諦念とちょっとの期待が混じった文章を書いているのである……。