仁義なき戦いの舞台を見に博多座に行ってきた。

AKB48(グループ)のメンバーが総出演し、仁義なき戦いの舞台をやるということで、福岡は博多座へ行ってきた。はっきり言って気が狂っているとしか思えない企画だが、この国はアーサー王織田信長が女の子になる国なので、ある意味での納得感もある。まさか美能幸三も50年後に自分が女の子になっているとは思ってもみなかっただろう。舞台について触れている人があまりいなかったのでメモ代わりに思ったことを書く。

行きたいと思った理由は、自分が仁義なき戦いシリーズが好きであり、且つAKB48グループも好きで、且つ応援しているアイドルが出演するからだ。おれは仁義なき戦いシリーズ及び東映実録路線に対する思い入れを、ある程度持っている。大学時代にはじめて見た『仁義なき戦い』シリーズはただひたすらに面白く、また東映映画ひいては日本映画そのものに対する興味を抱かせる映画史的な広がりを含んでいた。深作欣二中島貞夫といった名前は自分の中で特別に響いてくるし、漠然と持っていた菅原文太松方弘樹、梅宮辰夫などなど(枚挙に暇がない)に対する"昭和の名優"的なイメージを凶暴で野卑だが魅力的な存在に一変させたのも『仁義なき戦い』シリーズがきっかけだ。

そしてAKB48も好きだ。正確に言うと、おれはAKB48グループに属している幾人かのアイドルのことが好きで、それは48グループというメジャーグループの持つブランドや安心感、距離の近さといったフィルターを通して好きになっている、という点でAKB48が好きだ。またそういうイメージと接触等の交流及びSNSを通して見て取れる彼女たちの人となり(のように思えるもの)が混ざり合い、彼女たちは自分の中である種の地位を占めている。常に理不尽な競争の中で「こうあるべき」という強い規範を強制される彼女たちが、ふとそれに囚われない人間らしさを見せてくれる瞬間に強く心が動かされる。舞台の中には今村美月ちゃんも出ている。お見送り(という劇中に出席確認することが何らかの理由で困難であっても遠い中はるばる来たんだぜというのを好きなアイドルに伝えるシステムがある)もあるし、これは行くしかない。

それにしてもAKBと東映実録路線が好きな人間の中で、両者が掛け合わされたからこれは最高の企画じゃないか……と思える人間が存在するのだろうか。お互いのことを好きであれば好きであるほど食い合わせの悪さに思いが至る。そもそも仁義なき戦いを舞台にしようと言うこと自体が難しいだろう。映画表現として突出した作品であればあるほど、それを舞台に翻案することは難しい。映画として優れているというのは映画以外で置き換えられない何か(それは例えば、深作欣二の生々しく無様な暴力描写であったり俳優たちの顔面及び佇まいの圧倒的な説得力であったり、多くは2019年の舞台で再現することが難しいものだ)があるからなのであって、ただ台詞回しをコピーすれば良いわけではない。そしてハードコアで血生臭い世界とふざけながらもキラキラとしたアイドルの世界(まあ今では血生臭い部分が隠せないくらいに露呈してしまっているが……)がどうやったら調和するのか。広能が坂井の葬式で銃を乱射した後、唐突にミニライブが始まったらどうしよう……。

不安を胸に飛行機に飛び乗り、博多に辿り着く。始まる前にかの有名な高菜ラーメンの店に並んだがどうも並びの進みが悪く(自分が急いでなければ何も思わないくらいです)、結局間に合わなかったので空腹のまま博多座へ。なんだかなあ……と思いつつもらったサイン入りポストカードに当選という付箋が貼ってありお見送りの撮影権利が当たったことに静かに喜ぶ。これはいい感じかもしれない。

本編は意外なくらい原作に忠実で、単純に言うと面白かった。ストーリーやセリフはほぼほぼ映画と同一。もちろん舞台向けに演出やセリフを翻訳している部分はそれなりの量があるけれど(例えば広能が土居を襲撃する前に女を突きながら「後がないんじゃ……」と呟く有名なシーンはマイルドに改変されてる)、特に違和感があるところはない。秀逸だったのは博多座の舞台装置で、ぐるぐる回って視点を動かしたり横だけではなく縦の移動が上手く使われていたり、あと映像をいい感じのタイミングでババーンと出したりと、ちゃんとそれなりに演出的工夫がされているのが伝わってきた。そのおかげでストレスなくアイドルたちの演技に集中することができた。

ちゃんとしたことを書くと、舞台としては原作と大きく改変されている部分があって、それは山守と盃を交わした広能・坂井・矢野・神原・槙原・山方の6人のチーム感が強調されているところだ。映画だと山守組の若い衆ということでチーム感というより群像って感じなのでそこの描き方は意図的に変更しているのだと思う。追加シーンとしては山守組の盃を交わしたあとに、この6人で酒を飲み交わしながら将来の夢を語り合う、的なシーンがある。あと盃を交わすシーン自体も映画だとズラッと並んで横一列になってるのを斜めから撮ってて出来事を撮ってる感・ドキュメンタリー感を強調する演出になってるんだけど、舞台だと横並びを前から我々が見るという構図になっていて、要は同期の桜感が強い風に演出している。また、これを受けて最後の広能が坂井をホテルに襲撃しに行くシーンも改変されていて、原作だと広能が坂井の部屋に入ったところ部下に取り囲まれてそこで説得されるって流れだけど、舞台では広能がホテルのロビーで捕まってそのまま車で向かった先が最初の6人で飲み交わした場所、で最期の会話をするという流れになっている。この改変は『仁義なき戦い』としては正直ウェットでわかりやすい感じすぎではあるものの、まあ一本串を刺していくためにはやむを得ない改変かなとも思うし、アイドルの青春感みたいなのと同期するところがあり、AKBで舞台化するということを踏まえれば全然悪くない改変だった。その代わり広能がガンダムSEEDのキラみたいに戦いを止めろ!!!!って言いながら右往左往する人になってるんだけど。

演技は結構みんな良いな~っていう(年齢に舞台観劇経験が伴っていないので演技の良し悪しがわからない)感想を持った。広能を演じる岡田奈々さんはマジムリ学園(舞台)のときもそうだけど雰囲気があって演技に筋が通っているのでちゃんとした舞台感みたいなのを出してて凄い。個人的に良かったのは瀧野由美子ちゃんで、マジムリ学園(ドラマ)を見た人ならあの衝撃的なまでの棒演技を記憶していると思いますが、その感情を無理に込め(られ)ない感じと、手足が長くて動きに無駄がないので日本刀を振り回すシーンが似合っていた。無駄がなさすぎてヤクザというか殺人マシーン感が出てしまっていて若杉なのかどうかは置いといて見てておもしろかった。今村美月ちゃんは矢野修司っていう主要人物の一人なのにどういう人間なのかわかりにくいという難しい役柄だったけどちゃんと存在感を出しててよかった。怪訝な顔で辺りを見渡すみたいな場面が多かったんだけどその表情もかわいかった。笑顔が素敵で、アドリブの時の頭の回転も早い感じで、そんで、そんで……。

ただ、全体的にシリアスな場面でお笑い風のアドリブが入ったりとAKB特有の内輪おふざけ要素も結構盛り盛りって感じでそこはAKBのノリに慣れていないとかなり厳しいものがあるかもしれない。というか決定的にある。おれは既にこのノリに浸かってしまっているのでアドリブを楽しむ彼女たちを見て笑顔になってしまったが。また、第二部がレヴュー48というあんみつ姫という福岡のやつがあってそれがAKB劇場の元ネタでみたいな感じだったんですがこれもなかなか。メンバーが個人というより集団として扱われているところが新鮮だった。皆さんは行ったことがないのでわからないと思いますがサンリオピューロランド感がありました。つまり宝塚っぽい。おもしろかった。

そういうわけで、舞台としてめちゃくちゃ優れているとか、仁義なき戦いの舞台として凄いというのは無いけれど、改変や演出の堅実な的確さと好きなアイドルたちが馴染みの深い役柄の演技をしているということで、案外AKBと仁義なき戦い両方のファンからすれば楽しめてしまった。原作レイプみたいなああいう発想が自分にはあんまりなくて、それは原作とそれをモチーフにしたものというのは違っていて当たり前だと思っているところがデカいかもしれませんが。そんな舞台とレヴューで3時間くらいやってたし、時間の都合で当選したのに行けなかったけどゆいりーのご案内とか当選してガッツリ撮れたお見送りとか色々特典もあってあと座席も4列目とかで普通に体験として面白かったです。仁義なき戦いが好きなだけの人には絶対にオススメしないけど、AKBグループが好きで且つ推しメンがある程度以上出てる人は行って損無いというか。広島死闘篇が広島市でやったら行きたいくらいには満足です。

そんな感じであとはウェルビー福岡行ったり湯らっくす行ったり水炊きとんかつ馬肉食べたり最高な感じの旅行でした。九州最高。